2009年05月10日

「絶対貧困」/「小さな国の大きな奇跡」

「絶対貧困」/「小さな国の大きな奇跡」         「絶対貧困」/「小さな国の大きな奇跡」


「絶対貧困」

・・・実際のところ、貧困といって具体的なイメージを持っている人はどれだけいるのでしょう。おそらく路上で暮らす物乞いを思い浮かべることができても、彼らが誰と結婚してどこでセックスしてどうやって赤ん坊を産んでいるかはご存じないはずです・・・(「はじめに」より)

物乞い、ストリートチルドレンといった1日1ドル以下で暮らす人々とスラムで寝起きを共にした著者が描いたノンフィクションである。
「絶対貧困」層の恋愛や結婚、出産や葬儀、職業など、たいへんわかりやすく描かれている。

これらの生活、一面では悲惨といわれかねないのだが、それはあくまでも恵まれている先進国からの目線であって、もともとスラムで生まれてきた本人達にとっては生まれた時から同じことであって、今が悲惨と感じるものではないのである。
スラムには最低限の生活を営む上での互助精神も残っている。

印象に残ったところ
世界を旅してて物乞いや(取るに足らないような)物売りに出会ったときの対処の話があった。たしかにインドなどを歩いていると物乞いや物売りから金を無心されることがあるが、著者は本の中で、そんなことで悩む必要はなくあげたらいいという。数ルピー程度をやることで、少なくとも、その人は食事にありつくことができる。

裏を返せば、そのあげる金がなければその日の食事にありつけることもできないということもある。
そうなればどうなるか、金がなくなれば、薬物売買などの犯罪行為に手を染めるしかなくなる。
彼らを利用しようとする裏のビジネスが待っている。その犯罪組織にとっては彼らは資金源になりうるのだ。女性であれば売春業に関わるようになる。
結果、薬物、そしてHIVなどの病気の感染も広がっていく。

普段の生活に思うような悲惨さはなくても、ひとつ足を踏み外すと闇の部分に踏み入ってしまい抜けられない。その危険性が高い。こういう生活が「絶対貧困」という層である。
米軍なども各国の貧困層から入隊者を募って戦場前線に派遣している。よってアメリカが起こす戦争の被害者はそういった層である。ある程度の富裕層は戦争が起こっても死ぬことはない。このままいけば日本もそのようになりかねないだろう。
経済的な豊かさを誇る国であってもこういう貧困と隣り合わせである。

ないものとして目を背け蓋をし本人の問題として片付けるだけでは結果闇の部分の世界が拡がっていくだけ。結局のところは、世界の現実を突きつけられる本だった。

***************************************************
「小さな国の大きな奇跡」

では、そのようなホームレス、物乞いのいないキューバのような世界はどうかと思い読んだ本。

生まれてから死ぬまで住居と最低限の食糧は保障している。
教育と医療を無料にし教養と健康を大切にしている。識字率は100%。国民の等しい教養こそ革命の実現に欠かせないものという。
しかし圧倒的に物がない。
例えば携帯を持つなど日本では既にあたりまえのことができないなど経済的な豊かさは全くない。また海外を自由に旅するなど個人の行動の自由も制限されている。国民が等しくその自由を享受できる状況になるまでは困難なのだろう。

大資本主義国家からのいわれなき経済制裁を受けていることも理由だろうし、キューバとしても国が目指しているものに対して世界情勢はまだまだと思い「この世界は未だ自由に往来できる状況にない」と判断しているのだろうか。それはわからないけど。
社会主義や共産主義は人間らしく生きていくための理想であるが、これまで多くの国が失敗してきたのは権力者による独裁国家に傾きかねないことである。ソ連、東欧がそうだったように。カストロだったからうまくいっているとの見方もあるだろう。

医療と教育は無料。つまり医者になるための教育も無料ということで、医者は日本の3倍いる。そして発展途上国や被災地に医師の派遣もしているという。
この人間を大切にする思想が海を越え、広がっていったならキューバの自由は広がるのかもしれないと思う。実際のところ南米はかなりの国で社会主義政権となっている。そういった国々から得られるものによってキューバの経済的な水準も上がっていくであろうし、将来、国民が自由に外国を往来できることにも繋がっていくのだろう。


同じカテゴリー(映画,本,CD他)の記事
「少年と自転車」
「少年と自転車」(2012-06-10 22:18)

旅行人「休刊」
旅行人「休刊」(2011-12-26 22:42)


 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。