真のリベンジ伊是名12~伊是名での夜~
~前回のあらすじ~
「民宿ときわ」の今晩の同宿の旅人が男性一人ということを知った我々であった。
男性一人といえば、しらさぎ展望台へ行く道で車で轢きそうになった青年しか思い浮かばない。なにしろこの島で彼以外の観光客を見ていないからだ。
そして宿に帰り、それらしき後ろ姿があったのでおそるおそる覗き込む。雰囲気的にさっき轢きそうになった男じゃないと直感で感じほっとするも、目の前にいるその男は、ダイバー・ナイフでウニの殻をひたすら割っていたのだった。
・・・更に怪しい予感がする。
とりあえずその男の顔はまだ見ることなく部屋に帰り、荷物の整理などをする。
部屋の本棚には「カフーを待ちわびて」のハードカバーが置いてある。本人のサイン&メッセージが添えられている。ちょっと読んでみようかと思ったものの、ほかに洗濯もしないといけないし、と本はそのままに再び庭に戻った。
そこには一日の行程を終えた長男と次男が洗って干されていた。
そして庭では、長男次男(人間の方)が一人旅の男性とすでに会話を交わしており、いつのまにかビールを酌み交わすなど仲良くなっていた。
マニア同士通じ合うものがあったのだろうか。
というわけで男性一人客は、懸念されていた車で轢きそうになったしらさぎ展望台の彼ではなく、
妻子もいるいい歳をしたおじさんであった。横浜から来たという。
そして私もそこに加わり、自己紹介もそこそこにどっからともなく出てきたビールを一緒に飲む。おじさんより先ほど砕いていたウニも「どうぞ」といただく。
どうやらいい人のようだ。
「ご飯ができましたよ」と美代おばぁ。そのまま夕食に突入する。
ダイバーおじさんは妻子は家に置いて気楽な一人旅のようである。というもの前に民宿に泊めて子供に嫌がられ「今度は一人で行ってきてね」と言われたようだ。
残念なようなだが理解できる話である。たしかに子供に民宿は面白くは無いだろう。
生まれてくる我が子には首がすわったけどまだひとりで歩くこともできず話すこともできない頃、一度離島の民宿に連れ、本人の記憶のないうちに
脳の奥底に記憶を組み込ませよう、と思っている。そしてとりあえず子供の頃は電車とか飛行機とか世界地図とか一般に子供受けしそうなものを近づかせるくらいにとどめておく。すると、大学生になった頃くらいに一人暮らしでもして旅に目覚めタイやインドあたりに親の許可も無く勝手に一人で行くようになるだろう。そしてそれも落ち着いてきた頃、離島の民宿でまったりと楽しむようになることだろう。
まぁ妊娠6ヶ月の妻の腹の中でこういうところに怪しいメンバーといっしょに来ている以上(望む望まないは関係ない)、そして私が父親である以上(これも望む望まないは関係ない)、脳の奥底の記憶以前に
消えることない遺伝子が既に組み込まれていることだろう。多分。
さて夕食中の座の話題は、我々の子供の名前の話になったと思ったら、他の話題に移ったりする。
そのたびにダイバーおじさんが
「で、子供の名前はどうなったの?」と話を戻してくる。
子供にこだわりでもと思ったが、ほどなく彼が産婦人科医だったということが判明した。なんと!
「ここは20年前の設備しかないから、今、急変になっても、私もここじゃ診ることはできないよ」
妻にそういう。
最近でこそDrコトーの話もあり離島医療に注目が浴びられているが、離島へ行くというのは、設備が不十分な環境で「自分の医者としての腕が落ちてしまう」ことになってしまう。大きな病院では若い医師は2ヶ月おきに担当科を変わるなどで経験を積んでいるという。また決して離島だけに限ったことではない。個々のスキルアップを高めることを行いつつも、それとは異なる大きな力が作用することで一定のルールが作られるようになれば。質を落とさず医師や看護師の数を増やせるよう予算の裏づけも含めて充実しないとと思う。
夕食後は、ダイバー産婦人科医といっしょに昨日同様星空を観にパイナップルツアーズの旧伊是名漁港まで散策。今日も空は満天、じっと見てると吸い込まれるような感覚がする。昨日よりも天の川がくっきり見えるような気がした。
そして街頭も消え寝静まった集落をときわに戻り、伊是名の夜は静かに更けて行った。
======================
そんなわけでこの旅からはや1ヶ月が経過した。
妻は妊娠8ヶ月目の突入。今日、検診だった。
子の重さは1366g、1ヶ月前よりも550g増えている。それに比例し妻の重さも順調以上に増えている。逆子ではないらしい。
そしてエコーで顔を初めて見た。モザイクみたいなのが、ある瞬間、顔になってるのを発見したときは感動ものである。ちゃんと目はふたつあった。ウルトラマンみたいだがなかなかかわいい表情をする時もある。あくまでもエコーだが。
しかし、頸管が24mmと短いようで(普通は30mm以上)、これが20mmになったら即入院とのこと。短くてもその長さを保っていればOKなようだが、いずれにしても切迫早産の可能性もあるもののよう。
(つまり体を縦にしてると出てきそうになるということ。早く言えば)
妻の産休まで3週間。今日、パソコン上であなたの顔を初めて見たので、まだ外界には出てこなくていいぞ。
関連記事