11月5日(金)12:30頃
飛行機出発の時間までゆっくりして土産などを買いに集落をうろうろしようと思っていた。
庭でゆっくりしてると民宿のおばさんが話しかけてきた。
「昨日はバリバリ岩に行って、漁港は行きましたか?」
「いえ、暗くなってきたんでそのまま帰りました」
「あら、漁港には行かなかったの?」
それはまるで、こんなさい果ての南大東までやってきてるというのに、お前達はなぜ漁港に行かないのだ?とでもいうような口ぶりだった。漁港がそんなにすごいのか?
「漁港はすごいですよ。城壁みたいですよ。まだ時間はあるので行ってみてくださいね」
しきりに漁港を勧める。そういえば初日からそうだった。
だが、さすがに3日間の自転車で膝もかなりくたびれてきていた。
今日の午前中も精力的に動いた。最後の方は長男の本能のまま忠魂碑まで探しあてた。自転車も終わり「やれやれ、あとはゆっくりしよう」と思ってたところに追い打ちをかける一言だった。そんなわけで、
「あぁ・・・、そうですね」
というに留まった。
それでも、おばさんは引き続き漁港の話を続ける。そして、だんだんと長男も例の国土地理院の地図(戦跡がマーキングしているやつ)を持ち出し漁港の建設のいきさつについていろいろと話し出す。
おや?だんだん二人で漁港の話で盛り上がり始めてるぞ。
まぁ待て待て、いいじゃないか、また近いうちにフェリーで北大東に渡り、その後南大東にも来ると決意したのだから、その時に行けばいいじゃないか、次の楽しみに残しておくのも乙なものだろう、もうここをてこでも動かんぞ。・・・と思っていたものの、密室協議の結果、以下の結論に至った。
「わかった、そこまで言うのなら、もうひとふんばり漁港までがんばろう」
ふたたび外周道路に登る坂道をあえぎあえぎ上り、北に向かって30分、すれ違う人も自転車も車もいない。そして最後の目的地、漁港に着いた。着いた途端目を疑った。
なんじゃこりゃ。
岩をくり抜いて港を作っている。
今までの島ののんべんだらりとした景色とは明らかに違う。
先入観なしに行ったものだからまったく想像を超えるものだったことにびっくり。
漁船が直接接岸できるようするため岸壁を削って作った大きな漁港なのだが、おばさんの言うとおりこれは城壁だ。そして、なんとなくギリシャにあるような古い競技場のようにも見える、水がなければ。
看板があったので見る。
平成元年から工事に着手し来年度終わる予定。事業費は23年間で299億円である。
おばさんは言っていた。
「でも、旅客船は入れないんですよ。漁船は農林水産省で、旅客船は国土交通省の管轄になるから、補助がおりなくなるらしいです」
粟国でもそうだった。旅客港を整備しているのに、人の来そうにないところに立派な漁港を作ってた。そこへのアクセス道路が離島にふさわしくない歩道付きの二車線の道路だったし。漁船と旅客船の航路がごっちゃになると危険でもあるが・・・。
旅人としては、旅客船で吊りあげられる体験を残してくれたので、それはそれでよかったと思うべきなのか。
この漁港の工事で23年。この間、旅客用の西港も整備されたことだろう。そして新しい空港も10年前、2000年に完成したというし、空港と集落をつなぐ新しい歩道付きの立派なアクセス道路も建設された。(その歩道は人が通った形跡はないが。)今も「夕陽の広場」という公園を建設中である。
20年以上、島は公共事業で潤っている。
民宿にも旅行客以上に沖縄本島などから出稼ぎできている土木作業員が泊まっている。それで泊まって夜は飲んで、この島は潤っている。観光客が来なくてもやってこれたことだろう、これまでは。
海の向こうに島影が見える。北大東島だ。
はっきりと見える。なにしろ北大東まで8kmしかない。
8kmしかないのだが、この間の海の深さは1,500mまで深くなる。
富士山のような山が海の底からにょきっと生えている。そんな島が2つ。沖大東島を合わせると3つある。
この島は本当に絶海の孤島なんだなぁ。
15:40頃、民宿金城発、泊まってた土木作業員2人といっしょに民宿の車で空港へ行く。
15:50空港着。
2泊3日、お世話になった民宿のおばさんに別れを告げ、空港に入ると、そこは人だかり。どうやら午前の便が出発できなかったらしい。そんなわけで午後の便は満席とのこと。
今日は天気は良かったし、しいて言えば風が強かったくらいだが、一体どんな理由で出発できなかったんだ?(あとで確認すると機体の故障が原因だったらしい。)
機体に乗りこむ。
16:25定刻通り、琉球エアコミューター機は南大東を離陸。
しばらくは島の上を飛ぶ。薄い緑のサトウキビ畑、大池が見える。上から見るとほんとにこの島は池が多いなぁ。
「電子機器の使用はご遠慮ください」とアナウンスで言ってるのに長男は写真を撮っている。そんな長男の姿を見て安心したのか後ろに座ってた人もデジカメを取り出し写真をパシャパシャ撮りだした。この飛行機が故障して、南大東に戻ったり、あるいは北大東に不時着してしまったとしたら、責任の所在は長男にあるといえよう。
しかしプロペラ機は、そんな責任の所在のことなどおかまいなしに突き進み、だんだんと島影は小さくなっていく。
飛行時間は1時間。那覇へむけて突き進んでいる。
帰国
の二文字がちらついてきた。そうか、戻るのか。
那覇といえばもう大都会。帰ってきてしまったなぁ。
と、思うとなんだか寂しくなった。
ムスメは1歳10ヶ月になった、仕事も忙しいけど充実している。
今の日常はそれなりに大変だけど、これまでの人生の中でいちばんかけがえない日々を送っていると思う。
そんな日常の中、気持ちが旅から遠ざかっていた時もあったけど、でも行ってみるとやっぱり旅は楽しい。旅が好きなんだって思う。
帰る場所は決まっているけど、時々ふらふらうろうろしよう。
17:40
那覇に着いた。
機内のアナウンスの最後に一言付け加えられた。
「皆様良い週末を」
そうだ、今日は金曜の夜、世間はこれから週末だ。
そうだ週末だ、そんなわけで、これから先は長男と二人、那覇の夜の街に消えていったのでありました。
=南大東島へ 終わり=